【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。
 突然声をかけられたフィリベルトさまは、後ろを振り返って「ああ、そうだ」と柔らかく微笑んだ。私もつられて後ろを振り返ると、女性が立っていた。

「こちらの美しい女性は、もしかして、リディアさまですか?」
「え、ええ。初めまして」

 どうして私の名前を知っているのかしら、と目を丸くしつつも挨拶のため立ち上がる。

 すると、周りにいた人たちが一斉にこちらに視線を向けた。

 えっと、この場合どうすればいいの……? と助けを求めるようにフィリベルトさまに視線を移すと、彼もカタンと椅子から立ち上がって、私の肩を抱く。

 キャァアアッ! と黄色い悲鳴が聞こえた。ローレンとチェルシーはその様子にびっくりしたように肩を跳ねさせた。

「改めて、オレの婚約者のリディア・フローレンス公爵令嬢だ。ユミルトゥスには留学にきてくれたんだ」

 肩から背中にぽんと背中を押されて、一歩前に出る。

 みんなの好奇の視線を感じながら、ふっと表情を(ほころ)ばせた。

 カーテシーをしてから、視線を巡らせて領民たちを見る。みんな、私の言葉を待っているみたい。

「ご紹介にあずかりました。リディア・フローレンスと申します。ユミルトゥスの学園に留学できること、光栄に思っておりますわ。そして――フィリベルトさまの婚約者として、スターリング領のさらなる発展に力を注ぐので、ご協力いただけると幸いです」

 にっこりと微笑んでみせる。

 私はフィリベルトさまの婚約者なのだから、スターリング領の発展に力を注いでも構わない、わよね? 心の中ではちょっと不安を感じながらも、表情には出さないように気をつけた。
< 112 / 146 >

この作品をシェア

pagetop