【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

スターリング領 3話

 こぼれた言葉は、フィリベルトさま以外にも聞かれていたみたいで、再びキャァアアッ! と黄色い悲鳴が上がった。

「フィリベルトさま、本当に良かったですねぇ」
「リディアさま、スターリング領をよろしくお願いいたします!」

 領民たちから祝福や歓迎の言葉がぽんぽんと出てくる。なんだか感無量だわ。婚約破棄された令嬢がこんなに歓迎されるなんて……。

「あ、そうだ。フィリベルトさま、これを持っていってください。うちで採れた野菜です!」
「あ、それならうちも!」
「このパンも!」

 と、おそらく朝市で売る商品をどんどんと押し付けてきた。

「ありがとう。ジェレミー、デリック、馬車まで運んでくれるか?」
「かしこまりました」
「いつもたくさん、ありがとうございます」

 ジェレミーとデリックが領民たちに頭を下げて、いただいたものをひょいひょいと持ち上げる。

 いつも、ということは領の視察のときに、こんなふうにいただいているのかしら?

「みなさんの分は大丈夫なのでしょうか」

 こそっとフィリベルトさまに(たず)ねると、彼は「大丈夫だと思うよ」と微笑んだ。

 それなら、いただいても良いのかな? でもいただくだけなのは少し気が引けるわね。

 そんな私の考えを読んだかのように、フィリベルトさまはポンっと私の肩に手を置いて口を開いた。

「これは、オレらの婚約祝いだよ。みんな喜んでくれているんだ。オレの初恋が叶ったこと」

 ――え?

 ……待って、初恋?

 幼い頃に私たちが会ったことがある、とは聞いていたけれど……フィリベルトさまが私を探していた理由も知ったけれど……きっぱりと初恋と伝えられると気恥ずかしい。

 でも、なんで心の中が温かくなるのかな。彼の言葉ひとつひとつに、私への愛情を感じて、心が満ちていく感覚があるの。
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