【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。
 でも、『運命』ってもしかしたら、努力してなっていくものかもしれない。

 ふと、そんなことを思ったの。

「この国の人たちは愛情深いから、もしも愛されたら覚悟してくださいね」

 ぴっと人差し指を立てるのは、おそらく夫婦で朝市にきていた奥方。その人は観光にきていたら見初められたらしく、熱心なアプローチに負けてしまったと、幸せに微笑んでいた。

 竜の国、ユミルトゥスの人々は愛情深いと国外に伝えられているのは、こういうエピソードで(あふ)れているから、かもしれないわね。

「……ただ、こんなにも私のことを肯定して愛してくれる人は、この人以外いないんじゃなかって思っちゃうんですよね」

 きゃ、と恥じらうように顔を両手で覆う彼女は、とても愛らしく見えた。

「愛し愛され、が一番ですわよね」
「ええ、本当に」

 よく見れば、周りの人たちも恋人や夫婦に見える人たちは幸せそうに笑っていたし、ひとりできていた人たちは、そんな人たちを羨望(せんぼう)のまなざしで眺めている。

 この国にとって『運命』の存在は、なくてはならないものなのでしょうね。

「あ、もしかしてデート中でしたか!? すみません、フィリベルトさまが帰ってきたと聞いて、つい声をかけてしまいました」

 最初に声をかけてきた女性がハッとしたように顔を上げて、フィリベルトさまを見る。彼はちらりと私に視線を向けた。彼女に答えを、ということ?

 それなら……と微笑みを浮かべて胸元に手を置いた。
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