【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。
「なんだか夢のようですわ」
「夢?」
「私をこんなに愛してくれる人に出逢えるなんて、思っていませんでしたもの」

 するりと言葉がこぼれた。本音を口にできる関係なのも、私が彼に惹かれた理由のひとつ。

 そして、考えてみればアレクシス殿下の婚約者として、王妃になる未来が待っていた私にとって、本音を隠すことは慣れたものだった。

 本音を笑顔で隠すことを、何年してきたのかしら。今でも笑顔で本音を隠すことはあるけれど、彼の前でそれはしなくなった。

 だって、隠す必要がないのだもの。

 彼が、私のことを気遣ってくれていることを知っている。その気持ちが伝わって、隠すことをしなくなった。

 ――本音を隠すって、結構気力がいるものね。

 もちろん、気付かれたくないことは隠すけれど……私がふと不安になったとき、フィリベルトさまはただ黙って抱きしめてくれた。言い出すのを待っていたのだと思う。

 我ながら、なかなか面倒くさい性格だと感じる。

 でも彼は、そんな私に寄り添ってくれた。

 比べるのもおこがましいけれど、アレクシス殿下とは全然違う。全身で、私のことが好きなのだと、教えてくれる。――それが、フィリベルトさまだ。
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