【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。
 その探究心は大事なことだと思う。食欲は三大欲求のひとつなのだし、お腹が満たされると気持ちも落ち着くしね。

「それじゃあ、行こうか」
「はい」

 すっと手を差し出すフィリベルトさま。その手を取って立ち上がると、周りからキャァ、と黄色い声が聞こえた。

 フィリベルトさまってやっぱり、目立つみたい。

「お幸せに、フィリベルトさまー、リディアさまー」

 と、後ろから声をかけられて、私の名前も呼ばれてびっくりしちゃった。いつの間に私の名前、広がったんだろう。

「ありがとう、必ず幸せになるよ」

 フィリベルトさまがひらりと片手を振って、その声に応える。お店の中はいろんな歓声で震えるようだった。

「……なんというか、うちの領民が盛り上がっていて申し訳ない」
「それだけ慕われているということですわ」

 慕われているのはいいことだと思う。フィリベルトさまと領民たちがこんなふうに打ち解け合っているのを見ると、国の違いを感じるわね。

 公爵家という、高い身分のもとに生まれた私たち。

 貴族としての在り方はいろいろとあるだろうけど、こうして領民たちと気軽に接しているところを見ると、スターリング家では貴族と平民の差があまりないような気がする。

 ……ううん、もちろん、住んでいる場所は違う。ただ、平民のことを大事にしているってひしひしと肌で感じるの。

 領民と話すときも、立ち止まって彼らの目を見ながら。きっとずっとこんなふうに接してきたんだろうなと思い、私にもできるかしら? と考えちゃった。
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