【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。
 とはいえ、前世の私は庶民だったから、もしかしたらうまくできるかも?

「慕われている、か。そうだといいな」

 しみじみとつぶやくフィリベルトさまに、「絶対にそうですわ」と柔らかく声をかけると、彼は嬉しそうに微笑んだ。

「ところで、行きたい場所とは……?」
「ついてからのお楽しみ」

 ……まだ話すつもりはないみたい。

 ゆっくりとした歩調で目的地まで向かう途中、何度も声をかけられた。領民たちは本当にフィリベルトさまを慕っているのだと感じて、なぜか私まで嬉しくなった。

 フィリベルトさまは領民たちと話しているあいだ、たまにちらりとこちらを見た。待たせてすまない、と視線で謝っているような気がして、繋いだ手をぎゅっと強く握る。

 私のことはいいので、領民たちと話してください、という気持ちを込めて。

 領民たちは私にも話題を振ってくれ、疎外感(そがいかん)を感じることはなかった。むしろ、昔のフィリベルトさまの話を教えてくれて、もうちょっと聞きたいくらいだったのだけど……。

「すまない、今度また話をしよう」

 と切り上げてしまった。

「デートのお邪魔をしてすみません、楽しんでくださいねー」
「あ、ありがとうございます」

 領民たちに声をかけられるたびに立ち止まり、また歩き出す……を繰り返して、ようやく目的地についたときにはすっかり夕方になっていた。

「――ここは」
「きみに見せたかったんだ、この時計塔」

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