【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。
 一歩一歩、着実に進んでいけば大丈夫……よね、きっと。

 一定のペースを崩さずに階段を(のぼ)る。フィリベルトさまは私のペースに合わせてくれているみたい。おそらく、彼ひとりならスタスタと階段を(のぼ)りきるでしょう。

 何段あるかまでは数えていなかったけれど、なかなか長い階段だ。

 ようやく(のぼ)りきった頃には、ちょっと息が上がってしまっていた。

「ここからの景色が、とてもきれいなんだ」

 扉を開き、外に出るようにうながすフィリベルトさま。扉の外に出ると――……ふわり、と風が私の頬を撫でる。

 ――その日の光景を、きっと私は一生忘れない。

 夕映えの景色はあまりにも美しくて――……言葉が出てこない。

 日中と夜は、竜に乗ってその景色を眺めることができた。でも、この夕暮れ時の景色は初めて見た。空の色、雲の色、夕焼けに照らされる街並み。そのすべてが、とてもきれいなオレンジ色に染まっていた。

「気に入ってくれたかな?」
「はい……とても、とてもきれいですわ……」

 声が、震えた。こんなにきれいな光景を私に見せようとしてくれたんだ、と思うとなぜか胸がきゅっとした。きれいな景色を共有してくれたことへの嬉しさと、彼がこの景色を見ていたとき、なにを思っていたのだろうという切なさが混ざり合う。

 この時計塔の上から、私のことを想ってくれていたのかな、なんて……。

「絶対に、案内しようと思っていたんだ」
< 139 / 146 >

この作品をシェア

pagetop