【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。
 すっとフィリベルトさまが、私に向かって(ひざまず)く。

 そして、小さな箱を取り出した。……これは、もしかして……?

 カーン、カーン、とお昼に聞いた重厚な音とは違う、高い鐘の音が鳴った。

「どうか、この指輪を受け取ってほしい」

 小箱を開けて、中身を見せる。

 きらりと輝くダイヤモンドの指輪。いつの間に、指輪を用意していたのだろう? 今日、渡そうと思っていたのかな、……本当に、私が受け取ってもいいのかな、といろいろな考えが頭を巡った。

 でも――断る理由なんて、ないわ。

「リディアのことが好きだから、これから先の貴女の人生をもらいたい。……ダメ、だろうか?」

 彼の瞳はとても真剣で、少し不安そうに揺れていた。

「――ありがとうございます、フィリベルトさま」

 ようやく言葉にできた。フィリベルトさまが私のことをこんなにも想ってくれる。

 それだけで、私の心は満たされるの。

「末永く、よろしくお願いいたします」

 目の前がにじんだ。声も震えている。怖くて震えているわけではないけれど、感情が昂ってしまう。

 学園のパーティーで婚約破棄をされて、フィリベルトさまに求婚されて、フローラと決着をつけて……今までの、いろいろなことが思い出されて、その記憶のすべてにフィリベルトさまがいたことに気付いて、ずっと支えられていたのだと改めて実感した。

「こちらこそ」

 フィリベルトさまは私を見上げたまま、心底嬉しそうに微笑んだ。指輪を取り出し、そっと左手の薬指に通してくれた。……きっと私、今、顔が真っ赤だわ。

「抱きしめてもいいかい?」
「もちろんです」

 立ち上がり、ぎゅっと私を抱きしめるフィリベルトさま。

 ――愛しい気持ちが溢れてくる。こんな気持ちを、初めて知ったわ。

 少しだけ離れて、自然と顔が近付いていく。

 目を閉じると、すぐに唇が重なった。

 私、今日のことを絶対に忘れない自信があるわ。

 愛しい人の腕の中で、そう思った。
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