【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

番外編(フィリベルト視点)

 幼い頃に出逢ったのは、金色の髪を二つに結んで、エメラルドグリーンの大きな瞳に涙を浮かべた少女だった。

 竜を初めて見たのだろう。怯えてしまった少女にどんな声をかければいいのかわからなかったが、その少女がとても綺麗で――なんとか竜は怖くないと伝えたくて、口を開く。

『だいじょうぶ、この竜はだいじょうぶだよ』

 ムーンは大人しい竜だから、大丈夫だと安心させたくて――少女は『本当?』と涙で潤んだ瞳で問いかけた。

『うん、本当。大人しい竜だから』

 ホッとした表情を浮かべる少女に、するりと言葉がこぼれる。

『わぁ、きみ、すごくきれいな人だね!』
『あ、ありがとう……?』
『こんなにきれいな女の子、はじめて見た!』

 恥ずかしそうに顔を赤らめる姿も可愛くて、トクンと胸が高鳴ったのを覚えている。今思えば、あのとき恋に落ちたのかもしれない。

 ――それから、少女の姿は見なくなった。スターリング領をくまなく捜しても、ムーンに乗ってユミルトゥス国内をくまなく捜しても、見つからなかったが……どうしても諦めきれなかった。

 国内にいないのならば国外だろうかと考え、隣国の地図も眺めていた。その頃になると、両親はオレが誰を探しているのかを理解したようで、留学を勧めてくれた。

『留学?』
『そう。他国に留学して探すのもいいだろう。見聞も広がるしな』
『見つかるといいわねぇ』
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