【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。
 これはおそらく、になるのだが、両親はオレがいると思う存分いちゃいちゃできないので、留学を勧めたのでは? と睨んでいる。

 さすがに年頃の息子に、そんな姿を見せるのは父親の威厳に関わると思ったのかもしれない。

 ……今更、な気がするが。

 留学自体はあっさりと決まった。ユミルトゥスから離れるのは初めてで、少しワクワクしていたことを覚えている。

「フィリベルトさま、少しよろしいですか?」
「ああ、なんだ?」

 ジェレミーとデリックに声をかけられ、振り向くと一冊の本を差し出された。

「これは?」
「新しい物語です。お暇なときにでも」
「ああ、出来上がったのか」

 ジェレミーは物語を紡ぐことを趣味にしていて、騎士の仲間内でよく読まれていた。そのうちのひとりに、『製本してみませんか?』と声をかけられたのがきっかけで、彼が紡いだ本が世に出ることになる。

 そして、思っていた以上に彼の本は広まり、今では国外にも売られていた。

「今回はどんな話なんだい?」
「ユミルトゥスの神話をちょっと絡めてみました。二巻はまだ書いていないので……」
「こっちを本業にしたほうがいいんじゃないか?」

 ジェレミーに問いかけると、彼が右手の人差し指を立てて眉を下げた。それをからかうようにデリックが口角を上げる。

「いや、騎士だから!」
「あはは」

 じゃれ合うようなやり取りを見て、オレは肩をすくめた。
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