【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。
 そんなことを考えながら表紙を捲ろうとしたら、チェルシーが私たち……いえ、私を探していたようで、息を切らしながら駆け寄ってきた。

「大変です、お嬢さまッ!」

 チェルシーはあわあわとよくわからない手の動きをしながら、ガシッと私の手を掴んで立ち上がらせ、ぐいぐいと引っ張っていく。

「どうしたのよ、そんなに慌てて」
「ユミルトゥスの方がいらっしゃってます!」
「――え?」

 昨日の今日で早くない? いや早すぎない? 私、かなりラフな格好なんですけど――!?

「ちょ、ちょっと待ってチェルシー! せめて着替えさせてッ!」

 チェルシーがずんずんと進んでいく廊下は応接室の方向だ。というかもう近い。

 もしかしたら、私の声が聞こえてしまったかもしれない、とヒヤヒヤしながらなんとか彼女の動きを止める。

 彼女は一度足を止め、くるりとこちらに振り返り、にぱっと笑みを浮かべてぐっと親指を立てた。

「大丈夫ですよ、お嬢さまなら!」
「いやいやいやっ、他国の方がいらっしゃっているのなら、こんなラフな格好失礼じゃない。だから、一度私の部屋に――……」

 がちゃり、と扉が開き、フィリベルトさまが様子を窺うように辺りを見渡し、私たちに気付いた。

 あああ、大きな声を上げてしまったから、気付いてしまったのね!
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