【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。
 ま、こういうのは相手にしないほうがいいわよね。

 フィリベルトさまを見上げると、彼は一度ふたりを睨みつけるように目を細めるも、すぐに私に視線を移し、とろけるような甘い表情を浮かべて口を開く。

「はい、私の愛しい貴女(あなた)

 イケメンオーラ、ほんっとうにすごいわ!

 彼の後ろにお花が飛んでいるように見える!

 それもバラ。真っ赤なバラ!

 似合いすぎて、ちょっと面白い。ここまでやってくれるのだもの、私も応えなくちゃ。

 ぽっと頬を赤らめて、彼のことしか見えていないように甘く微笑んだ。

 ――そう、アレクシス殿下との婚約破棄なんて気にしていないのよ、と――……。

 呆然としているふたりを残して、私たちは歩き出す。

 ……それにしても、昨日から思っていたのだけど、フィリベルトさまは私の歩調に合わせてくれているのか、とても歩きやすいわ。

 アレクシス殿下と歩くときは殿下がスタスタといっちゃうから、早足にならないといけなかったのよね、結構高いヒールのときもそうだったから、歩きづらかった記憶があるわ。

「私の顔に、なにかついていますか?」
「いいえ。ただ――……フィリベルトさまはエスコート慣れをしているみたい、と」
「私の国の貴族は慣れているでしょうね。騎士の国なので」

 ひそひそと話しながら歩く。

 騎士の国だから慣れているってどういう意味かしら……?

 あとで聞いてみましょう。ちょっと気になるな、竜の国ユミルトゥス。騎士が多いってことなのかしら?

「我が国が気になりますか?」
「ええ、いつか見てみたいですわ」
「いつかと言わず、今すぐでも構いませんよ?」

 今すぐでも……? と目を(またた)かせると、彼は上機嫌そうに口角を上げていた。

 教室までエスコートしてもらい、さらに私の席までついてきて、椅子まで引いてもらった。本当、完璧なエスコートだったわ。
< 29 / 146 >

この作品をシェア

pagetop