【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。
「心配しないでください。オレがいますから」

 あれ、今オレっていった?

 そういえば、最初に声をかけてきたときも、一人称を途中で変えたようだった。

 素のフィリベルトさまの一人称は『オレ』なのかな?

「フィリベルトさま、もしかして……わざと丁寧な口調にしていますか?」
「さて、どうでしょう?」
「もしも、それが私のためなら、やめてくださいませね。私も猫を被るの、やめますから」

 にこり、と微笑んで彼を見ると、「そうこなくっちゃ」とばかりに口角が上がった。

「ですが、今日はこのままの口調でいきますよ。周りの目もありますからね」
「そうですわね、授業も始まりますし」

 ちょうど、先生がきて授業が始まった。先生は私の存在に気付いて、一瞬目を瞠ったけれど、どこか安堵したように息を吐き、出席を取る。

 フィリベルトさまから昨日の授業の内容を書き写した紙を差し出されたので、ありがたくそれを受け取った。

 授業中にこういうやりとりができる友達が、いなかったのよね、私。

 リディア的にはそれどころではなかったわけだし、私に声をかける人も友情ではなく下心があったし、そりゃあ業務報告的なことは伝えられたけど。

 ――アレクシス殿下と並んでも見劣りしないようにって、意気込み過ぎていたのよね、きっと。その結果が友達ゼロとは泣けるわ……。

 いっそ心機一転、新しい場所でやり直したいわ、私の人生。

 本当、留学でもしようかしら。でも、そうなるといろいろ面倒なことになっちゃうかな? 今から編入できる学園を探すのも、お父さまに苦労を駆けそうだわ。

 誰も私を知らない場所で、ひっそりと生きていくのも悪くないと思う。どんどんと妄想が膨らんでいく。だって、今の私は自由だもの。
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