【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。
「――それでは、今回はここまで。リディアさん、少しお時間をいただけますか? フィリベルトさんも」

 ここの先生は学生のことを全員『さん』付けで呼ぶ。

 貴族も平民もいる学園だけど、学園内そういう上下関係が出ないように、と聞いたことがあるわ。

 ……あれ、そういえば昨日の授業の内容を、どうしてフィリベルトさまは知っていたのかしら。休んだのではなく、早退だった?

 私とフィリベルトさまは顔を見合わせて、先生のもとへ向かう。

 ざわざわと騒ぐ学生たちの声を背に受けながら。

 先生は「ついてきてください」と教室から出ていくので、あとを追うように教室を出た。

 フィリベルトさまはここでもエスコートしてくれるようで、手を引いてくれた。

 それを見た学生たちの反応は様々だ。息を()む人もいれば、きゃぁあと黄色い声を上げる人もいる。ちらりとフローラを見たけれど、すっごい顔をして私たちを睨んでいた。

 これはあとで荒れそうね。

 先生の個人部屋に案内されて、私たちはソファに座るように座るようにうながされたので、素直に座る。先生は私たちにお茶を用意してくれたので、一口飲む。

「まずは、リディアさん。一昨日のことなのですが……」
「一昨日の?」
「はい。止めに入れず申し訳ありませんでした。アレクシスさんとフローラさんにも昨日、話を聞きました」

 思わず先生をじっと見つめてしまった。え、なに、なんか大事になっている?

 困ったように眉を下げてフィリベルトさまに向けると、彼は小さくうなずいた。どうやらまだ、波乱はありそうだ。

「……アレクシス殿下とフローラさまは、どんなことを話していましたか? ……予想はつきますが……」

 どうせ、やってもいない私の悪行をつらつらと語っていたのだろう。

 階段から突き落とした覚えもなければ、フローラと話した覚えもないわ。彼女と一緒にいたアレクシス殿下に用があって、ちょっと話しかけにいったことはあるけれど。

 あの頃から殿下はたぶん、フローラに惚れていたのよね。私に対する態度がずいぶんと変わったもの。
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