【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。
「ええ。例えば――髪の手入れや肌の手入れ、爪の長さを整えつま先までピカピカに磨き上げ、誰もが納得する美しさを保つこと。そして、自国と各国の歴史を知り、政治を知り、それを暗記してすぐに口に出せること。各国の言葉を話せるようになること、ダンスを優雅に踊れるようになること――などなど」

 私が幼少期から叩き込まれたことだ。それができないなら、王妃になる資格はないとばかりに厳しく教えられてきた。

 もちろん、お父さまは心配そうに私を見ていたけど。

 それでもアレクシス殿下と婚約が決まった日から、私の地獄のような王妃教育が始まったのだ。

「アレクシス殿下の隣に立つというのは、ともに国を背負うということ。それをゆめゆめお忘れなきように……」

 ごくり、とフローラが唾を飲む音が聞こえた。

 アレクシス殿下は、私のことをマジマジと見つめている。まさか、王妃教育がどんなことか知らなかったわけではないわよね……?

「リディア嬢、入ってもいいかい?」
「お待ちしておりました。どうぞお入りください」

 フィリベルトさまにはマダムのエスコートを頼んだの。今朝お願いしたのだけど『お任せあれ』とウインクされた。本当に頼もしいこと!

 扉が開き、フィリベルトさまとマダムが教室に入る。彼女の姿を見たアレクシス殿下がびくっと肩を震わせた。

 ああ、そういえば殿下はマダムが苦手なのよね。殿下ったら、そんなにわかりやすく反応すると――……。

「お久しぶりですね、アレクシス殿下。顔色が優れないようですが、どうかされました?」

 ピクンと眉を跳ね上げてじっとアレクシス殿下を見るマダムに、彼はもう一度びくっと肩を震わせてから、こほんと咳払いをした。
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