【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。
「……あまりにも無意味な……子どもの喧嘩会場か、ここは?」

 ぽつり、と誰かがそうつぶやいた。

 本当にね。私はぱちんと扇子を閉じてにっこりと殿下とフローラに微笑み、カーテシーをしてから顔を上げる。

「婚約解消の件、(うけたまわ)りました。本日、父に伝えますわ。それでは、ごきげんよう」

 くるりと(きびす)を返して私はその『子どもの喧嘩会場』から出ていく。

 子どもの喧嘩会場、か。言えて妙ね。思わずくすりと笑ってしまう。

 それにしても、婚約解消ってことはもう次期王妃教育を受けなくてもいいのよね、やった! 会場の近くで待機していた御者を見つけて駆け寄ると私に気付いて目を丸くした。

「お嬢さま、ずいぶん早いお戻りですね?」
「ええ。ちょっとね。すぐに屋敷に向かってちょうだい。お父さまに伝えないといけないことがあるの」
「かしこまりました」
「お待ちください、リディア嬢」

 馬車に乗り込む前に呼び止められたので、振り返った。その声は、さっき聞こえた声と同じだったから。

 ええと、確か……隣国の公爵家の人だったような。

 ただ見つめ合うこと数十秒。艶やかな赤髪に、切れ長の黒曜石のような瞳を持つ男性がすっと自身の胸元に手を置いて口を開いた。

「竜の国、ユミルトゥスの公爵家嫡男、フィルベルトと申します」
「フィリベルトさま」
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