【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。
 あのあと、私がユミルトゥスに留学すると知ったアレクシス殿下が縋りついてきたけど、それは言わないでおこう。

 フローラさまとどうぞお幸せに、そう言って私は殿下との関係を終わらせた。

 フローラは現在王妃教育を受けているらしい。魅了の魔法を使えないように、魔封じのブレスレットを強制的に身につけられているみたい。

 すべて風の噂で聞いたこと。

 陛下たちにはアレクシス殿下しか子がいない。必然的に殿下が王太子であり、玉座につくとみんなが信じて疑わなかった。

 ところがこの騒動でいろいろ城内も騒がしくなっているみたいだし? 私はさっさと留学して殿下たちのことを忘れる決意を固めたのよ。

 お兄さまがちょっとだけ離れて肩に手を置き、顔をのぞき込んでくる。

 そして、どこか安堵したように表情を緩めると、ぽんと私の頭を撫でた。

「今度、なにかあったら遠慮なく俺を頼りなさい。そのために戻ってきたのだから」
「――え?」

 戻ってきた、とは?

 お兄さまを見上げると、彼はにこりと微笑んでぐっと親指を立てた。

「大学、スキップしてきた!」
「はい!?」

 なんということでしょう。

 いつの間にかお兄さまは大学を卒業してきたようです。

 卒業式ってまだよね? びっくりしてお兄さまを見つめると、彼はただ優しく私の頭を撫でている。

「フィリベルト、だっけ。例のリディアに婚約を申し込んできた人」
「え、ええ。そのことも……ご存知なのですね」
「父上から聞いたよ。リディアが幸せになれるのなら、俺は応援するけれど……」

 そこで一度言葉を切り、お兄さまは白い歯を見せて爽やかに次の言葉を口にした。

「もしもリディアを傷つけるなら、容赦はしないと伝えておいてくれ」

 ……ゲームでは本当に最後の最後にしか出てこなかったから知らなかったけど、『リディア』の記憶がある私ならはっきりとこう言える。

 ――キースお兄さまは兄バカであり、シスコンである、と。
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