【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。
「それでは、お父さま。お身体に気をつけてくださいね。――いってきます」
「ああ、いっておいで。リディアも、身体に気をつけるんだよ」

 お父さまに向けてこくりとうなずくと、フィリベルトさまがすっと差し出した。

 私はその手を取って、玄関から出ていく。

 フィリベルトさまと一緒に馬車に乗り込み、屋敷が遠くなるまでずっと窓から外を眺めていた。お父さまや使用人たちが、見送ってくれていたから。

「……寂しい?」
「……そうですね。ですが、留学は楽しみでしたのよ?」

 これは本当だ。

 だって、『リディア』を知らない人が主なのだから。

 国内ではアレクシス殿下の婚約者ということで、城下町にも名が広まっていたからね。

 公務のときに表に出ていたし……国民たちは私が次期王妃ってことで、いろいろしてくれたみたいだけど……ごめんね、こんな形で姿を消すことになって。そう心の中で謝罪した。

「それはよかった。両親もリディア嬢にお会いするのを楽しみにしていたから」
「やだ、そんなことおっしゃらないで。緊張してしまいますわ。……ところで、ユミルトゥスにはずっと馬車で向かいますの?」
「いや、国境を越えたら……ふふ、リディア嬢の驚く顔が楽しみだ」

 ふたりきりになると、割とこういう口調になるのよね、フィリベルトさま。まぁ、別に構わないのだけど。それだけ気を許してくれているってことだろうから。

 国境まで数回休憩を挟みながら向かい、国境を越えて広い場所に馬車をとめた。そして――……。

 思わず、あんぐりと口を開けてしまい、慌てて両手で口元を隠すことになった。
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