【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。
「ふぃ、フィリベルトさま!? い、いったいどうしたのですかっ?」
「いや、ムーンには触れるのに、オレには触れてくれないのかと思ったら、つい」

 婚約(仮)はしたけれど、まだフィリベルトさまのご両親に挨拶していないのよ!?

 ちなみにどうして(仮)なのかというと、本人同士で婚約の話を進めたから。

 だからこそ、フィリベルトさまのご家族にお会いするのが、今からドキドキと緊張しちゃうのよ。

「そ、そういうことは、無事にご両親の了承を得てからではないと!」
「ちゃんと説得したと言ったろう?」
「ダメです、順番があります!」

 私は公爵家の令嬢、フィリベルトさまも公爵家の子息。パニックになりつつ彼から抜け出そうとしたけれど、私の力では拘束を解くことは無理そう!

 ふわっとお姫さま抱っこをされて、ムーンの背に乗る私たち。あ……の、乗せるためだったのね……!

「ここからは空の旅だ。余裕があるなら、景色を楽しむといい。ムーン、頼んだ!」

 フィリベルトさまの声に応えるように、ムーンが吠えた。

 そして、バサッと翼を広げて空へ舞う。

「わぁぁあああっ!」

 私の口から出たのは悲鳴……ではなく、空から見える景色があまりにもきれいだったから出た、感激の言葉だった。

「すごい、すごい! こんなにきれいだったなんて!」

 そうはしゃいでいると、フィリベルトさまがくつくつと笑う声が耳に届いた。どうして笑うのかしら、と彼を振り返る。

「そんなに感激されるなんて、光栄だよ」

 ……はしゃぎすぎちゃった。

 ジェットコースター大好きだったのよ、前世の私。

 久々のジェットコースター感を味わって、空から見える世界を楽しんでいるとフィリベルトさまはきゅっと私の腰を掴んで、「しっかり掴まっていて」と耳元でささやく。――すると、ムーンが急降下した。

 うわぁ、すごい、すごい! 本当にすごい! ジェットコースターの急降下と同じくらい、ううん、それ以上のスリル!

 ムーンが平地に着地すると、フィリベルトさまは私の腰を掴んだままムーンから降りた。
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