【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

どんな場所なのだろう? 1話

「そうそう、私のことはエステルって呼んでね。挨拶の場なのに、名乗っていなかったわよね、私たち。夫はローレンスという名前よ」

 そういえば、そうだった。私も緊張していて、名前を(たず)ねることをしなかったことを反省し、「エステルさまとローレンスさまですね」と柔らかい口調で口にする。

「そのうち『お義母さま』や『お義父さま』って呼ばれるのかしら、うふふ」

 むしろ、そう呼ばれたいようにも見えた。だってあまりにも明るい声だったから。

「あ、ここよ。一応フィリベルトの部屋の近くにしたわ。だから、寝るときはちゃんと鍵をかけてね」
「え、ええ……」
「婚約したからといって、油断は禁物よ。男はケダモノになるときがあるもの。あ、それは女もだけどね」

 それはつまり……と考えて、頬に熱が集まるのを感じた。

 私がなにを考えているのか察したエステルさまは、ちらりとこちらを見て扉を開ける。視界に入ってきたのは――これぞ女の子の部屋! という可愛らしいベビーピンクとフリルをたっぷりと使ったインテリアだった。エステルさまは可愛いものが大好きみたい。

「ど、どうかしら? 気に入らない?」

 不安そうに瞳を揺らしながら尋ねてくる彼女に、私は慌てて両手を振った。

「とても可愛らしい部屋だと思います。私は好きですよ」

 こういう乙女っぽい部屋、前世で憧れていたのよね。お姫さまみたいで。
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