【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。
 私の問いに、ぱちくりと目を(またた)かせたエステルさまは、「そうねぇ」と下唇に人差し指を置いて上を向いた。

「自由、だったかしら」
「自由、ですか?」

 返ってきた言葉は、意外なものだった。自由な学園ってどういうこと?

「十代の多感な時期だからね、恋に燃え上がる子もいたし、家を継げないから、と勉強に燃え上がる子もいたわ。懐かしいわねぇ」
「恋に、燃え上がる?」

 エステルさまはこくりとうなずいた。

「ほら、貴族って政略結婚が多いじゃない? 家のことだから仕方ないって諦めている人たちも多かったけれど、それでも一度くらい好きな人と付き合いたいって子も多かったのよ」

 目をキラキラと輝かせて語るエステルさま。彼女はきっと、恋の話も好きなんだろうなぁ。

 顎の下で両手を組んで、懐かしむように目元を細める姿は、とても乙女の顔をしていた。

「私とローレンスが出会ったのも、学園だったのよ」
「えっ!」
「ダンスパーティーの日に、足を挫いた私を抱き上げてくれたの。彼のたくましさに惚れちゃったのよね」

 きゃ、と恥ずかしそうに頬を染めるエステルさまに、彼女たちの馴れ初めがどんなものだったのか知りたいという欲求が出てきた。だって、あんまりにも可愛らしい反応をするのだもの。

「そこから、お付き合いするようになったのですか?」
「……いいえ、その頃の私には、幼い頃からの婚約者がいたの。でもね、その人は浮気性で、『運命の相手を探すため』と女性をとっかえひっかえしていたわ」

 はぁ、と重くため息を吐く。……エステルさまに婚約者がいたとは……しかもその人が浮気性の人だったなんて……と眉を下げてしまった。

「ある日、耐えられなくなった私が、学園の片隅で泣いているところに、偶然通りがかったローレンスが声をかけてきたの」
「まぁっ」

 思わず甲高い声を上げてしまった。だって、泣いているエステルさまを発見して、声をかけてくれるなんて、ドラマチック!
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