【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

夢の中で

 ――そこは、夢の中だった。

 なぜ夢なのかと気付いたかといえば、鏡合わせのようにリディアがいたからだ。

「……ごきげんよう、私」
「……ごきげんよう、リディア」

 毎日鏡で見ている顔と身体。

 だけど、雰囲気はまるで違う。

 私の目の前にいる『リディア』は、今にも消えてしまいそうな儚さを感じた。

「……ねぇ、ひとつ、教えて」
「……なにを?」
「私のなにが、ダメだったのかしら」

 ぽろり、と涙が彼女の目から流れた。――ああ、彼女は本当に、アレクシス殿下のことを慕っていたんだと思い、そっと彼女に手を伸ばす。

「あなたがダメだったわけじゃないわ。フローラが魅了の魔法を使っていたのだもの」
「魅了の魔法だからって、あんなに骨抜きになるのかしら?」

 魅了の魔法は他の人たちを惹きつけて離さないと教わっている。だからこそ、危険なのだと。

 好きな人によく想われたいというのは、誰にでもある感情だろう。だが、その想いを正当化して人を傷つけることをする――そういう人も多いのだと、教わった。

「きっと殿下は、私よりも彼女に惹かれていたんだわ。だから私とのお茶会も、エスコートも嫌な顔をしていたの」

 はらはらと流れる大粒の涙を見ながら、彼女をぎゅっと抱きしめた。彼女は一瞬身体を強張らせたけれど、すぐに力を抜いて泣き続けた。慰めるようにぽんぽんと、背中を優しく叩くと、彼女はますます泣いてしまった。きっと、ずっと自分の感情に蓋をして我慢していたのだろう。

 婚約破棄を宣言された日、涙を流したことを思い出した。
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