【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。
 眉を下げて微笑むと、彼は一度私の顔を見て頬に手を伸ばしてきた。

 彼の大きな手が、私の頬に添えられた。包み込むようなその手は、ほんの少しだけ冷たい。

「フィリベルトさま、私……夢を見ていたようです」
「夢を?」
「はい。なんだかまだ……夢から覚めていない気がして。少しだけ風に当たりたいのですが、構いませんか?」

 私がそうお願いすると、彼は「もちろん構いませんよ」と微笑んだ。

 手を差し出されて、迷うことなくその手を取った。そのことに、彼はとても嬉しそうに口角を上げ、部屋から外へと歩き出す。

 廊下に飾られている絵画や、置かれている花瓶もきっとエステルさまの趣味なのだと思う。可愛らしいものが多かったから。

 そして、ローレンスさまは内装を任せているから、なにも言わないのかな?

「母とふたりきりになりましたが、大丈夫でしたか?」
「え? ええ」

 廊下を歩きながら、フィリベルトさまに問いかけられた。どうしてそんなことを聞くのかしら? と彼を見上げると、困ったように微笑んでいて首をかしげる。

「母はとても乙女趣味なので……それを貴女(あなた)に押し付けているんじゃないかと……」
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