【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

 彼の温もりに包まれて、私もぎゅっと抱きついた。トクントクンと胸が高鳴る。

 フィリベルトさまの(そば)にいたい。彼に私を見ていてほしい。これから先、ずっと。

 その気持ちを込めてきゅっと背中に回した手。夜空の下で、私たちは初めて――唇を重ねた。

 それはまるで、引き寄せられるかのようだった。ほんの少しだけ身体が離れ、彼の手が私の顎に添えられて、そっと目を閉じると唇に温かいものが触れた。

 少しかさついている、彼の唇。ちゅ、ちゅっとリップ音を立てながら、唇を何度も重ねていく。

 唇から伝わる、彼の気持ち。

 その感覚に、ふわふわとした気持ちになってしまう。

 だって彼は伝えてくれている。――私のことが、好きだって。

 ゆっくりと唇を離して、私たちはただ見つめ合った。

 互いに視線を離さず、また引き寄せられるように唇が重なる。

 きゅっと彼の服を掴むと、唇が離れてまた抱きしめられた。

「……これは、夢ではありませんよね?」
「もちろんですわ。フィリベルトさま。私も、貴方を望んだのです」

 貴族として、結婚することは私の義務だ。

 でも、結婚するのなら、――私が心から望んだ人がいい。

 幸いにも、フィリベルトさまは私のことを本気で望んでくれている。

 こつんと額が重なり、彼は「……ありがとう」と小さくささやいた。

 その言葉を伝えたいのは、私のほうなのに……。婚約破棄を宣言されて、前世の記憶を思い出してから早数ヶ月。

 来期からの留学ということで、私はそのあいだ後悔のないように過ごしていた。フィリベルトさまはそんな私の傍にいてくれた。
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