冷徹狼陛下の子を授かりました!
 結局、夫となったエドワードと一言も交わすことなく部屋を後にしたが、表情からは感情が読み取れずもちろん触れる機会もなかった。触れることができたら、心の声が聞こえたかもしれないのに……

 それどころか、近寄ることもできない空気だ。

「はぁ〜」

 思わずため息が漏れるほど執務室は緊張に包まれている。退出した瞬間に一気に息苦しさから解放された。まだ気持ち良さそうに眠るレオンを抱いたまま、マテオのあとをついて行く。シンと静まり返った城の中は、人の気配すら感じなかった。

 ――コツコツ

 マテオとマリアの足音だけが異様に響き渡る。

 迷路のような城の中を歩いて、一つの扉の前でマテオが立ち止まった。一人で出歩くと、もうこの部屋へは戻って来られなくなりそうなほど特徴がなく迷路になっている。

「ここが、今日からマリア様のお部屋です」

 マテオが扉を開くと、マリアが長年暮らしてきた伯爵家の自室とは比べものにならないほど、広くて綺麗な部屋が視界に入る。
 
「え……」
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