冷徹狼陛下の子を授かりました!
 マリアが病気になっても満足に医者にも診てもらえず、屋敷の端の部屋で寝ているだけだった。一度何日も高熱が続き、ハンナが必死で父へ掛け合い医者に診てもらったことがある。

 その時触れた医師の手から、心の声を聞いたのだ。

『可哀想に。もう少し早く診ていたらここまで悪化することもなかったのに……。この子は今回の熱のせいで不妊症になる確率が極めて高い。父親はどう思うだろうか』
 
 不妊症の意味を知らないマリアでも、言葉はしっかりと頭に刻み込まれた。

 成長したマリアは、幼い頃聞いた医師の言葉を思い出し調べて愕然とする。子供が産めないと言われていたのだ。

 病気以降、さらに父がマリアへの風当たりを強くしたのは、政略結婚に使えないと判断したからではないかと鋭いマリアは気づいていた。

 一生伯爵家の薄暗い部屋で暮らし続けると思っていたマリアには、今回の結婚話は寝耳に水だったのも頷ける。

 相手が冷徹陛下と言われていようが、この部屋を見るだけでもブルネリアとは比べものにならない好待遇だ。

 考えごとをしているうちに、レオンを抱っこしたままマリアはソファで眠ってしまった。
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