冷徹狼陛下の子を授かりました!
「早く行かないと陛下を待たせちゃうよ」
「あっ、うん」

 そうだ。忙しい陛下を待たせるわけにはいかない。ひとまず、今の言葉は聞かなかったことにして食堂へ急ぐ。

 レオンに手を引かれて案内してもらわないと、マリア一人ではまだ食堂まで辿り着けない。レオンがいなかったら、マリアは毎回迷子になっているはずだ。

――バンッ

 レオンはノックもせずに、食堂の扉を開ける。マリアにとっては心の準備をする暇もなく陛下との対面となった。

「陛下!」
「……ああ」
「お、お、おはようございます」
「……」
 
 レオンに対しては軽く返事をしたが、マリアの挨拶に対しては一瞬視線を向けるだけだ。マテオへの態度を見ていただけに驚きはしないが、もう少し何かあってもいいのではないかと思う。

「ママ、座ろう!」
「……ママだと?」

 レオンがマリアをママと呼んだ瞬間に、訝し気な表情でボソッと呟いた。

「そうだよ。ダメなの?」
「……」

 今は人間の姿なのに、レオンの耳と尻尾が垂れたように見えた。もちろん、実際には見えていないのだが、明らかに落ち込んだ様子が伝わってくる。
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