冷徹狼陛下の子を授かりました!
 父や義母や義妹がいないだけで、マリアの人権は尊重されている。

 結婚式の翌日には、マテオに直談判した。最初は何もしなくていいと言っていたマテオだったが、マリアの熱意に負けて、資料を準備してくれるようになる。

 数日後には、簡単な仕事を回してくれるようになり、毎日暇を持て余すことなく充実した時間を過ごしているのだ。

 まだ数週間だが、確実にマリアの居場所はここに存在する。もし、ブルネリアに帰る選択肢があったとしても絶対に選ばない。

 夕暮れ時――

 いつもなら、夕食の時間だと呼びに来てくれるレオンが現れない。窓の外を見ると薄暗く、満月が姿を現している。

 ブルネリアで見た満月より大きく感じた。

「キュイーン、ワァオ」

 窓の外の暗闇の中から、何匹もの狼の遠吠えが聞こえている。マテオが城の裏の森の中には、狼が生息していると言っていたが、普段は鳴き声が聞こえないので、意識したことはなかった。

 満月の夜が、狼の存在を知らせている。
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