冷徹狼陛下の子を授かりました!
 ――コンコン、カチャ

「はい。レオン? 遅かったわね」

 マリアが扉の方へと振り向くと、青い顔をしたリリアンがワゴンを押して入ってきた。ワゴンの上には料理が乗っている。

「夕食をお持ちしました……」
「レオンに何かあったの?」
「マリア様、今日は満月ですよ!」
「ええ、知ってるわ」
「どうしてそんなに冷静なんですか!」
「リリアンこそ、そんなに怯えてどうしたの?」

 いつもレオンから逃げているリリアンだが、今はレオンが居ないのに明らかに怯えている。

「この不気味な狼の遠吠えが聞こえないんですか?」
「聞こえてるけど……」
「狼の恐さを知らないから……。とにかく、お食事は運びましたから! ワゴンは明日取りに来ます。では、失礼します」

 言いたいことだけ言って、慌てて去って行った。リリアンの様子を見る限り、今日は部屋から出ない方がいいのだろう。

 一人で食事をするのは実家にいたとき以来だ。実家の部屋とは全然違うが、一人だと昔を思い出してしまう。

 ここへ来てから、毎日レオンと楽しく過ごすうちに、それが当たり前になっていた。幸せな時間を知ったマリアは、一人が寂しいと感じる。
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