冷徹狼陛下の子を授かりました!
 先を歩く使用人の後ろを、きょろきょろと辺りを見回しながらついて行く。結婚式の時の飾りは外されて、お化け屋敷かと思うほど寒々しい。腕の中のふわふわとした温もりが唯一の心の支えだ。

 廊下はどこも同じように見えて、すぐには覚えられそうにない。一人で歩いていたら、すぐに迷ってしまいそうなほど特徴がないのだ。

 前を歩く使用人と必要最低限の会話程度で、こちらからは話しかけづらい。

 ――コツコツコツ

 大理石の廊下は、マリアと使用人の足音だけが大きく響いて不気味だ。

 ――コンコン

 使用人が突然、一つの扉をノックする。何の前触れもなく心の準備もできないまま、目的地へ到着したようだ。

「はい」
「マリア様をお連れしました」

 結婚式で見た新郎を思い浮かべて、急に鼓動が早く大きくなる。あの冷たい眼差しで見られたらと想像しただけで恐怖が襲う。

 ――ガチャ

 内側から扉が開き顔を見せたのは、夫となったエドワード陛下ではない男性が出てきた。マリアが王城へ到着した時に迎えてくれた男性だが、あの時は自己紹介をする間もなく案内だけされたのだ。
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