白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
 ロイさんが来なくなった直後は何かと心配してくれて顔を出してくれたが、わたしがロイさんの大剣と実質的なリーダーを引き受けてパーティーを立て直し、それが軌道に乗るとここへ来る頻度は減った。
 単純にプライベートが忙しいだけなのかもしれないけれど。

「やあ、ヴィー。久しぶり。結婚したんだってね、おめでとう」
 エルさんが笑顔を見せる。トールさんは無表情ではあるものの、わたしに向かってこくこくと頷いている。

「ありがとうございます。おかげさまでわたしもお嫁に行くことができましたよ。エルさんとトールさんもお元気そうで何よりです」 
 この2年間、ダンジョンに潜り続けて泥まみれになり、魔物の血を浴びまくり、擦り傷切り傷は日常茶飯事で、何度「もうお嫁に行けない~!」と叫んだことか。

「よかったじゃないか。ヴィーのような可愛い妻を娶った男は果報者だね」
 とんでもない!
 旦那様とはあの黒歴史になるであろう初夜の翌日に本宅を追い出されて以来、かれこれ1か月お会いしてませんが?

 リアルのお飾り妻生活について暴露したら話が長くなりそうだから話題を変えることにした。
「ハットリ、これがパーティー加入手続きの書類なんで、空欄になっている箇所の記入をお願いね」
 エルさんとわたしのやり取りを眺めていたハットリに書類の入った封筒を渡し、記入が済んだら冒険者協会に赴いてカード情報の追加をしてもらうという流れを説明する。

「ねえ、ヴィー」
 ハットリが書類の記入に集中していることを確認して、エルさんに手招きされた。
 彼がチョイチョイと親指以外の指4本を折り曲げて人を呼ぶときは、内緒話がしたいという合図だ。
 椅子に座るエルさんへ上半身を傾けて耳を寄せる。

「彼さ、BAN姉さんいけるんじゃない?」
 ごにょごにょと囁かれた言葉に大きく頷いた。
「エルさん、お時間あるなら同行してもらってもいいですか?」
「いいね、久しぶりのダンジョンだ」
 エルさんが嬉しそうに笑った。
< 14 / 93 >

この作品をシェア

pagetop