白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

ロイさんとの出会いを思い出しました

 今回のハットリの二次テストを見ていて、ロイさんと初めて会った時のことを思い出した。

 あれは今から2年近く前のこと。
 全寮制の王立高等学院を卒業して実家に戻って来たばかりの頃だった。
 もともとダンジョンの冒険に淡い憧れのようなものを抱いていたわたしは、冒険者協会で登録を済ませて発行してもらったばかりのカードとガイドブックを持ってマーシェスダンジョンの入り口から少し離れた場所に立ち、どのような人たちが中に入っていくのかを眺めていた。

 魔物との戦闘経験など当然ないし、武器や防具も持っていない。
 それでもレジャーランド化している上層階だけならいいよね?
 そう思って一歩を踏み出そうとしたとき、後ろから声を掛けられたのだ。

「お嬢ちゃん、ひとり? もしかしてダンジョンに行くところだったかな」
 軽い調子の声に、これはいわゆるナンパというやつか!?と思いながら恐る恐る振り返ると、そこには男性が3人立っていた。

 ひとりはキラキラなエフェクトが見えそうな笑顔を振りまく王子様っぽい人、その後ろに立つクリムゾンレッドの瞳が不気味ないかにも俺様系の人、そしてその横に立つのはマッチョで無表情な大男だった。
 いわずもがな、これがエルさん、ロイさん、トールさんとの出会いだったのだ。

 大剣や斧を背負っている様子から冒険者なんだなというのはわかったが、そんな人たちがわたしに何の用だろうと勘繰った。
 もしや、ダンジョンを案内すると言って後から法外なガイド料を請求してくる「ぼったくりガイド」かもしれないと警戒心が増幅していく。
「いえ、あの……結構です!」
 慌ててその場を立ち去ろうとして、胸に抱えたガイドブックの上に乗せていた冒険者カードが滑り落ちてしまった。
 しゃがんで拾おうと伸ばしたわたしの手よりも先に、長い指がカードを拾い上げた。
「ふうん、ヴィーちゃんは今日登録したばっかりなんだ。僕はエル、こっちがロイで、こいつがトール。よろしくね」
 にこっ。

 いやいや、にこってされてもね?
 しゃがんだままエルさんのキラキラ笑顔を見上げて戸惑う気持ちばかりが大きくなる。
 これは後からわかったことだけれど、ロイパーティーは地下40階に一番乗りしたものの初戦で見事なまでの全滅を喫し、その後も何度もBANされ、重傷を負いながら試行錯誤を繰り返していたところで、地下40階で3か月も足止めをくらっていたのだ。
 蘇生や治療でパーティーの資金を大きく減らした上に見ず知らずのリスザルに先を越されたせいでロイさんのイライラは頂点に達していて、エルさん以外は誰も話しかけることができないほどピリピリした状況だったという。

 そんな時に、いかにも初心者の若い女の子を見つけて、この子を使わない手はない!と思いついたらしい。
 それがわたしだ。
 
< 20 / 92 >

この作品をシェア

pagetop