白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
 ぺこりと頭を下げて帰ろうとしたところで、一緒にくまーをもふもふしていたエルさんに腕を掴まれた。
 細くて華奢な腕に見えるけど意外と力が強い。

「待って! イカ焼きを奢る約束だったよね」
「結構です。そんなこと言って、イカ焼きが500万メルとか後から請求する気でしょ? ぼったくられるのは御免です。あなたがたは嘘つきで信用できません」

 ロイさんが横取りしようとしたのはペットだけではない。金貨もだ。
 俺らがいなかったら地下40階になんて行けなかったんだから、報酬を全てパーティーに寄付しろと言ってきたのだ。
 報酬の金貨は、メルに換金すると手数料を差し引いても500万メルは下らないという量だ。今はくまーのお腹の中に収まっているわけだが、もしもペットの所有権を奪うことができたら金貨ごとネコババするつもりだったのだろうと思うと、なんてセコい人たちなんだろうかと呆れてしまう。
 それを止めようとしないエルさんと終始無言のトールさんだって共犯だ。

 この時、ロイパーティーの資金が尽きかけているという懐事情などもちろん知らなかったわたしは、とにかく不愉快だった。
 地下40階に連れて行ってほしいとお願いしたつもりなどないし、報酬を全て渡す約束もしていない。

 むしろボスをクリアしてあげた報酬をこっちから請求したいぐらいだと言ってエルさんの手を振りほどくと、彼はしょんぼりした顔で「ごめんね」と言った。
 ずっとそっぽを向いたままだったロイさんが立ちあがった。

「いいよもう、こんなケチなヤツ放っておこうぜ。早速41階行かね?」
「え、ああ……うん」

 エルさんはわたしのことを名残惜しそうな目で見て「ヴィーちゃん、今日はありがとう! また会おうね」と言いながらロイさんに引き摺られていき、トールさんも無言でぺこりとわたしに向かって頭を下げてからふたりを追いかけて行った。
 ケチな男にケチなヤツって言われたわ。サイテー!

 そう思うほどに、ロイさんとの出会いは最悪だった。
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