白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
「本当なんです! 旦那様、驚かれないでくださいね」
 勢いよく扉を開けたサリーと、そんな彼女に引っ張られる旦那様と目が合った。

「旦那様、ごきげんよう。サリーったら大きな声を出してどうしたの?」
 わざとらしく首を傾げてみる。

 サリーは呆気にとられた様子で、口をはくはくさせながら震えている。
「そんな……私は確かにこの目で見ました。奥様の右腕がちぎれて落ちるのを……」

「サリー、疲れているんじゃないか? 私が先触れもなしに突然訪問したのがストレスになったんだね。申し訳ない」
 困ったように眉尻を下げる旦那様と元気そうなわたしを交互に見たサリーは、困惑しながらも深々と頭を下げた。

「お騒がせして申し訳ございませんでした」
 いいえ、申し訳ないのはこっちのほうだわ。
 土人形の腕がもげたのは、本当のことなんだもの。
 さぞや驚かせてしまったに違いない。

「わたしのほうこそごめんなさい。うっかりぐっすり眠っていて、起こしに来てくれたことに気づかなかったみたいだわ」
「サリー、今日は早めに仕事を上がりなさい。ゆっくり休むといい。いつもきちんとこの屋敷を管理してくれていることに感謝しているし、これからも頼りにしているよ」

 自分よりもひと回りほど年上のサリーの背中をさすりながら優しく語り掛ける旦那様は、とても素敵な若き当主に見える。
 サリーとともに図書室を出ようとした旦那様が振り返った。
「ヴィクトリア、今夜は夕食をともにしよう。その服装も思った通りの可愛らしさだけど、ドレスに着替えてもらえると嬉しい」
 甘い笑顔を向けられて、カーゴパンツ姿の自分が恥ずかしくなって頬が熱くなる。

 ズルい人だと思いつつも、旦那様のナイスフォローのおかげで事なきを得たのだから、ここは素直に感謝しなければならないだろう。
「承知しました。またのちほど」
 笑顔を取り繕って頭を下げた。
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