白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
ドレスといっても、客人がいるわけでもなく旦那様とふたりっきりの食事だ。
華美な装飾のドレスではなく普段使いに近いのものでいいだろう。
旦那様の指示で用意したと聞いているワードローブの中から、ウエストに切り替えがあるフレアワンピースタイプのシンプルな青いドレスを選び、それと同系色の青いリボンで髪を結び直す。
これは婚約中に旦那様からプレゼントしてもらったリボンだ。
食堂に現れたわたしを見て、先にテーブルについていた旦那様がスッと目を逸らした。
その目の動きで、あの初夜の出来事がフラッシュバックする。
またイタイと思われたのだろうか。
着替えてこいと言ったのは、旦那様なのに……。
それともこのリボンを見て、ちらりとでも罪悪感が芽生えたのか。
だとしたら、してやったりだ。後ろめたさぐらい感じていただきたい。
「明日、冒険者協会の会合があってね。仕事が立て込んでいたら日帰りで出席するつもりでいたんだけど、早く終わったからこちらに泊まることになった」
「そうでしたの。お疲れ様です」
どうせ愛人に急用ができて逢引の約束がなくなったとかでしょう?
「ヴィクトリアは元気にしていたか?」
「はい」
結婚式の翌日から1か月も音沙汰無しでよくそんなわざとらしいこと聞けるわね。わたしに興味なんてないくせに。
「……」
「……」
会話が全く弾まないまま、旦那様と向かい合って料理を口に運ぶ。
旦那様は時折わたしのほうへ目を向け、どんな話題を出そうかと考えあぐねている様子だ。
これだったら、普段のひとりの食事のほうがまだマシだ。
一般的な新婚夫婦でもラブラブでいられるのは最初の3年間だけだと聞くけれど、仮面夫婦だと最初からこんなにも居心地が悪いものだとは……。
それとは対照的に、久しぶりに当主が訪れたとあって使用人たちは張り切って給仕をし、旦那様もにこやかに「ありがとう」「これは塩加減がちょうど良くて美味しいね」と声を掛けている。
こういうところは見倣ったほうがいいだろうとは思う。
わたしも実家ではもっと和気あいあいの雰囲気で食事をしていた。
とはいえ、ぞんざいな扱いを受けていると言っては過言だが、普段は料理を並べてもらった後はわたしが食べ終えるまで誰も来ることがなくほったらかしで、この広いテーブルにひとりぽつんと座って食事をしているのだ。「いただきます」と「ごちそうさまでした。美味しかったわ」は必ず言うようにしているけれど、使用人たちがわたしに対してこんなイキイキとした笑顔を向けてくることはない。
もしもダンジョン攻略という趣味がなければ、わたしはこの家でどう過ごしていたんだろう。
疎外感が募って、せっかく美味しいはずの料理の味がまったく分からなかった。
華美な装飾のドレスではなく普段使いに近いのものでいいだろう。
旦那様の指示で用意したと聞いているワードローブの中から、ウエストに切り替えがあるフレアワンピースタイプのシンプルな青いドレスを選び、それと同系色の青いリボンで髪を結び直す。
これは婚約中に旦那様からプレゼントしてもらったリボンだ。
食堂に現れたわたしを見て、先にテーブルについていた旦那様がスッと目を逸らした。
その目の動きで、あの初夜の出来事がフラッシュバックする。
またイタイと思われたのだろうか。
着替えてこいと言ったのは、旦那様なのに……。
それともこのリボンを見て、ちらりとでも罪悪感が芽生えたのか。
だとしたら、してやったりだ。後ろめたさぐらい感じていただきたい。
「明日、冒険者協会の会合があってね。仕事が立て込んでいたら日帰りで出席するつもりでいたんだけど、早く終わったからこちらに泊まることになった」
「そうでしたの。お疲れ様です」
どうせ愛人に急用ができて逢引の約束がなくなったとかでしょう?
「ヴィクトリアは元気にしていたか?」
「はい」
結婚式の翌日から1か月も音沙汰無しでよくそんなわざとらしいこと聞けるわね。わたしに興味なんてないくせに。
「……」
「……」
会話が全く弾まないまま、旦那様と向かい合って料理を口に運ぶ。
旦那様は時折わたしのほうへ目を向け、どんな話題を出そうかと考えあぐねている様子だ。
これだったら、普段のひとりの食事のほうがまだマシだ。
一般的な新婚夫婦でもラブラブでいられるのは最初の3年間だけだと聞くけれど、仮面夫婦だと最初からこんなにも居心地が悪いものだとは……。
それとは対照的に、久しぶりに当主が訪れたとあって使用人たちは張り切って給仕をし、旦那様もにこやかに「ありがとう」「これは塩加減がちょうど良くて美味しいね」と声を掛けている。
こういうところは見倣ったほうがいいだろうとは思う。
わたしも実家ではもっと和気あいあいの雰囲気で食事をしていた。
とはいえ、ぞんざいな扱いを受けていると言っては過言だが、普段は料理を並べてもらった後はわたしが食べ終えるまで誰も来ることがなくほったらかしで、この広いテーブルにひとりぽつんと座って食事をしているのだ。「いただきます」と「ごちそうさまでした。美味しかったわ」は必ず言うようにしているけれど、使用人たちがわたしに対してこんなイキイキとした笑顔を向けてくることはない。
もしもダンジョン攻略という趣味がなければ、わたしはこの家でどう過ごしていたんだろう。
疎外感が募って、せっかく美味しいはずの料理の味がまったく分からなかった。