白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
 夕食を終えて旦那様と連れだって廊下を歩いているときに、少し潜めた低い声で問われた。
「ここの使用人たちと上手くいっていないのか?」

 食事の様子でそう思われたのだろうか。
 使用人たちの、わたしに対する態度を見て違和感を感じたのだろう。

 先に壁を作ったのがどちらだったかはわからない。
 庭師のマック以外は、わたしのことを放置されっぱなしのお飾り妻だと心の中で小馬鹿にしているのも知っている。でもそのおかげで、わたしはこっそり毎日のようにダンジョンに通えているのだから、この状況をむしろありがたいと思ってさえいる。

 たまにしか来ないくせに、わたしと使用人たちを仲良くさせようとか妙な気を起こされても困る。
「使用人たちがどう思っているかはともかく、わたくしはこの状況に不満はございません。要領が悪くて申し訳ありません。今日はもう休みますね。おやすみなさいませ」
 余計なことを言われる前に逃げよう。

 早く王都に帰ってくれないかしら。
 そう思いながら、まだ何かを言いたそうな顔をしている旦那様を置いてその場を離れ、足早に自室に入ったのだった。
 翌日の朝食の席ではまた旦那様から厄介なことを提案されてしまった。

「冒険者協会へ一緒に行かないか」

 はっ!?
 今日はわたしもその会合に参加することになっているから、座長である旦那様に気づかれないように入念に変装して行こうと思っているのに!

「ええ……っと、お仕事の邪魔になってしまいますから、わたくしはいつものように図書室でお留守番していますわ」
「いや、一度協会の様子も見ておいてもらいたいんだ。私の代理で出てもらうことも今後あるかもしれないからね」
 穏やかな声でにこやかに語っているものの、何故か拒否できない圧がある。

 ここはおとなしく頷くしかないようだと諦めて渋々了承した。
< 30 / 94 >

この作品をシェア

pagetop