白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
 馬車で旦那様と肩を並べて座るのは、婚約中にこの領地を案内してくれたデートの時以来だ。 
 あの時は、甘く微笑みながら膝にブランケットを掛けてくれる旦那様の気遣いに胸をときめかせていたというのに、今はなんとも居心地が悪い。
 あれは全てわたしを騙すための演技で、それにまんまと引っかかるだなんて、ロイさんといい旦那様といい、どうしてわたしの周りには嘘つきの男が寄ってくるんだろうか。

「ヴィクトリア、孤児院の慰問のことなんだが」
「ほぇっ!」
 窓の外に見える大樹を眺めながらそんなことを考えていたら急に旦那様が話しかけてくるものだから、思わず間抜けな声を出してしまった。

「は、はい、何でしょう」
 取り繕ってすました声を出してももう遅い。
 旦那様は肩を震わせてククッと笑っている。
「可愛いね」
 もうそんな言葉には騙されないわよ!

「孤児院がどうかしましたか?」
 10日ほど前に、領地内の孤児院を慰問した。
 孤児院への慰問は実家の領地でもしていたため慣れたものだ。だからそつなくこなしたつもりだったが、子供たちと一緒に泥んこになって遊んだのがマズかっただろうか。
 たしかにあの日、帰宅した時にメイドたちがわたしの泥だらけのカーゴパンツに一瞥をくれて嫌そうな顔をしていたから、それを「侯爵夫人らしからぬ行為」として報告を受けたのだとしてもおかしくはない。

 叱られる覚悟で身を固くしたわたしに、旦那様は笑顔のまま、子供たちからの評判がとても良かったのだと教えてくれた。
「次はいつ来てくれるんだってシスターが子供たちにせがまれているらしい。どうやって子供の心を掴んだんだ?」
 よかったとホッと脱力しながら、あの時の子供たちのはしゃぐ姿を思い出す。
「同じ目線で一緒に遊んだだけです」

 ピカピカの泥だんごをたくさん作って転がして遊んだり、土で本物そっくりの形をした食べ物をたくさん作り、それでおままごとをしたり、簡単な土魔法で子供たちが喜びそうな物を作って一緒に遊んだだけだ。
 ただしそれが魔法であることは秘密にしている。
 子供たちに魔法で作り出しているのだとバレたら、もっと見せろ、どんなことができるのか、と要求がエスカレートしてしまうに違いない。

「あまり頻繁だと子供たちも飽きてしまうでしょうから、月に一度ぐらいの訪問がいいかもしれませんね」
「そうするようにハンスに伝えておく。ヴィクトリアが子供好きで嬉しいよ」
 孤児院の子供たちの無邪気な笑顔を思い出してほんわか温かい気持ちになっていたのに、旦那様のそのひと言で心の中に冷たい風が吹き抜けた。
 
さてはこの人、愛人との子供をわたしに育てさせるつもりね?
 冗談じゃないわ、白い結婚のまま2年経ったら離婚してやるんだから!

 外の景色を確認すると、もう間もなく冒険者協会に到着するところまで来ていた。
 
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