白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
 冒険者協会の会長である旦那様に事務長を始め職員たちを紹介され、挨拶を交わす度にヒヤヒヤした。

 わたしのダークブラウンの髪やモスグリーンの瞳はこの国ではとてもポピュラーで、地味中の地味。最も特徴がなく見分けがつきにくいため、冒険者スタイルのときにも変装はせず髪をひとつ結びのおさげにしているだけだ。
 リアルの素性を隠したい冒険者の中にはしっかり顔を隠している人もいるが、わたしはこれまでリアルの知り合いとニアミスしたこともなければ、バレたところで何ら影響がないと思っていた。

 それがまさか、協会長の妻になり、顔見知りに対して初対面の(てい)で挨拶を交わすことになろうとは……。
 大丈夫よ。
 今日は清楚なワンピースで髪も下ろしているし、大きな口を開けて「わははっ」って笑ったりもしていないからバレないはずだわ!

 受付窓口係のアナベルさんと挨拶したときは、彼女が一瞬首を傾げるような仕草を見せたため肝が冷えたけれど、何も言われず当たり障りのない挨拶を交わすだけで終わった。
 冒険者協会の職員は、冒険者の個人情報をたくさん取り扱っているため守秘義務がある。
 もしかするとアナベルさんはそれを遵守してくれたのかもしれない。

「この後、会合が1時間ほどあるんだが、どうする?」
 会長室のソファで紅茶をいただいているうちに時間がきてしまった。

「わたしはここで待っておりますので、どうぞ行ってきてください」
「わかった。じゃあ、また後で」

 部屋を出て旦那様の足音が聞こえなくなるのを待ってから、大慌てで会長室の観葉植物の鉢植えに飛び込んだ。
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