白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
 冒険者協会の敷地を囲む植栽の土までワープした。
 そこから走って建物の中に入り、少々遅刻して会議室の後ろの扉を開ける。

「遅れて申し訳ありません。ロイパーティーです」
 円卓にはすでにほかの参加者たちが着席している。
 開いている椅子に座ると、左隣が懇意にしてもらっているユリウスパーティーのリーダーだった。

「ヴィーちゃん、なにその恰好」
「知らないんですか? ニンジャスタイルですよ」
 なにそれと言いながらユリウスさんが笑うと、ゴージャスにカールしたハニーブロンドの長髪が揺れる。
 顔立ちには中性的な美しさがあり、彼のことを女性だと勘違いしている人も多いようだ。
 物語によく登場する「エルフ」という種族がもしも実在するのなら、たぶんユリウスさんのような容姿に違いないと思う。

「そろそろ始めてもいいか」
 ユリウスさんと笑みを交わしていたら、旦那様のピリっとした声が響いた。
 姿勢を正して「お願いします」と一礼し、顔を上げた時に旦那様と一瞬目が合う。

 旦那様は眉間にしわを寄せて険しい顔をしている。
 遅刻してきてヘラヘラするなと思われただろうか。
 わたしの正体に気づかれてはいないと思う。
 気づかれるはずがない、目元以外は全部隠しているんだもの。

 今日の議題は、マーシェスダンジョン最下層のボス討伐の協力を仰ぎたいという、我々の要請で集まってもらっているため、座長である旦那様から「ではロイパーティーの代表者からひと言お願いします」と促されて立ち上がった。

「本日はお忙しい中ご足労いただきありがとうございます。地下48階のボスレイドでご一緒した方も、そうでない方も協力してマーシェスダンジョンの完全制覇を目指しましょう。どうぞよろしくお願いします」 

 大きな声でハキハキと挨拶をして、頭をぺこりと下げる。
 リアルでは旦那様の前で小さな声しか出していないため、そんなお飾り妻がこんな大きな声を出せることも知らないだろう。
 着席しながらもう一度チラリと座長席を見ると、なぜか旦那様は笑っていた。
< 34 / 59 >

この作品をシェア

pagetop