白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
その後も話し合いは続いた。
しかし、わたしが何か言えばジークさんが必ず反対意見を言い、討伐の作戦どころか参加者すら決まらない。
これでは埒が明かないということで今日の会合はお開きとなった。
「各パーティーでもう一度よく話し合ってからこの場に来てください。次回の会合の日程は追ってお知らせします」
旦那様がそう言い残して退室していく。
ロイさんが自主的に登録を抹消したという事実を聞いて動揺してしまったことも大きく影響しているけれど、それにしてもこの場すらまとめられないわたしに大規模討伐の陣頭指揮を執ることなど到底できないだろう。
きっと今日、この場にいた人全員がそう思ったはずだ。
椅子に座ったまま動けずにいるわたしを励ますように、トミーさんがポンポンとほっかむりの頭を撫でて退室していった。
隣にいたユリウスさんは、立ち上がりながら少し申し訳なさそうな顔でわたしの背中を撫でてくれている。
「ごめんね、あんなこと言ってしまって。でも、うちのメンバーが大怪我をしたりするのはやっぱりちょっとね」
ユリウスさんの言いたいことはよくわかる。
ヘタすると、蘇生不可能なほどの攻撃を食らう恐れだって十二分にあるのだ。
少しでも安全に、誰ひとりとして欠けることなく討伐を完了させたいと願うのは、パーティーのリーダーとして当然のことであり、それに向けて抜かりのない準備をする責務も負っている。
「大丈夫です。わかっています」
無理に笑顔を作って見せたが、よく考えたらこのほっかむりのせいで目元しか出ていないのだから口角を上げても意味がなかった。
「協力してくれる皆さんが納得して参加できるように、もう少し考えて出直してきますね」
「うん、頑張ろうね」
ユリウスさんは、マーシェスダンジョンにおいてロイパーティー以外でペットを運用している唯一の冒険者だ。
高難易度であることが必至のラスボス戦にペットは不可欠で、ユリウスパーティーには何としてでも参加してもらいたい。
ユリウスさんを見送って最後に会議室を出る……ふりをして、誰も近くにいないことを確認し、部屋にある観葉植物の鉢植えからまた酒場の2階へと移動する。
着替えないことには冒険者協会の中にある会長室には戻れない。
ボコボコっと音を立てながら酒場の2階に戻ると、ハットリが「ふんどし」とかいう名前のひもパンに、赤いマントを羽織って椅子に腰かけているではないか。
「やだ、変態!」
「仕方ねえだろうが、あんたが俺の服を奪って行ったんだろう! こんな格好でビアンカさんに助けを求めに行くわけにもいかねえし、何か着るもんないかって探したらこのマントを見つけたんだよっ」
ハットリが羽織っているマントは、対ファイヤードラゴン戦に備えて装具師に作ってもらった炎のブレス攻撃から身を守るためのマントだ。
まともにくらうと完全に防ぎ切ることはできないけれど、「熱っ!」と叫ぶ程度で済む優れもののマントで、これをパーティーメンバー全員分揃えるための素材集めに奔走したのはいい思い出だ。
こういうマントも万が一のために、くまーのお腹に入れて持っておいた方がいいかもしれない。
そんなことを考えながら、ハットリから借りた服を脱ぎ元のワンピースに着替えた。
「ありがとう、助かったわ」
「で? どうして会合に変装して行く必要があったわけ?」
たしかハットリの服を奪った時に説明している暇がないと言った記憶があるが、残念ながら今もその暇がない。
「ごめんね、旦那様を待たせているからまた今度。じゃあね!」
「せわしない人妻だなあ」
ハットリのそんなボヤキを聞きながら、今度は鉢植えではなく普通に扉から部屋を出たのだった。
しかし、わたしが何か言えばジークさんが必ず反対意見を言い、討伐の作戦どころか参加者すら決まらない。
これでは埒が明かないということで今日の会合はお開きとなった。
「各パーティーでもう一度よく話し合ってからこの場に来てください。次回の会合の日程は追ってお知らせします」
旦那様がそう言い残して退室していく。
ロイさんが自主的に登録を抹消したという事実を聞いて動揺してしまったことも大きく影響しているけれど、それにしてもこの場すらまとめられないわたしに大規模討伐の陣頭指揮を執ることなど到底できないだろう。
きっと今日、この場にいた人全員がそう思ったはずだ。
椅子に座ったまま動けずにいるわたしを励ますように、トミーさんがポンポンとほっかむりの頭を撫でて退室していった。
隣にいたユリウスさんは、立ち上がりながら少し申し訳なさそうな顔でわたしの背中を撫でてくれている。
「ごめんね、あんなこと言ってしまって。でも、うちのメンバーが大怪我をしたりするのはやっぱりちょっとね」
ユリウスさんの言いたいことはよくわかる。
ヘタすると、蘇生不可能なほどの攻撃を食らう恐れだって十二分にあるのだ。
少しでも安全に、誰ひとりとして欠けることなく討伐を完了させたいと願うのは、パーティーのリーダーとして当然のことであり、それに向けて抜かりのない準備をする責務も負っている。
「大丈夫です。わかっています」
無理に笑顔を作って見せたが、よく考えたらこのほっかむりのせいで目元しか出ていないのだから口角を上げても意味がなかった。
「協力してくれる皆さんが納得して参加できるように、もう少し考えて出直してきますね」
「うん、頑張ろうね」
ユリウスさんは、マーシェスダンジョンにおいてロイパーティー以外でペットを運用している唯一の冒険者だ。
高難易度であることが必至のラスボス戦にペットは不可欠で、ユリウスパーティーには何としてでも参加してもらいたい。
ユリウスさんを見送って最後に会議室を出る……ふりをして、誰も近くにいないことを確認し、部屋にある観葉植物の鉢植えからまた酒場の2階へと移動する。
着替えないことには冒険者協会の中にある会長室には戻れない。
ボコボコっと音を立てながら酒場の2階に戻ると、ハットリが「ふんどし」とかいう名前のひもパンに、赤いマントを羽織って椅子に腰かけているではないか。
「やだ、変態!」
「仕方ねえだろうが、あんたが俺の服を奪って行ったんだろう! こんな格好でビアンカさんに助けを求めに行くわけにもいかねえし、何か着るもんないかって探したらこのマントを見つけたんだよっ」
ハットリが羽織っているマントは、対ファイヤードラゴン戦に備えて装具師に作ってもらった炎のブレス攻撃から身を守るためのマントだ。
まともにくらうと完全に防ぎ切ることはできないけれど、「熱っ!」と叫ぶ程度で済む優れもののマントで、これをパーティーメンバー全員分揃えるための素材集めに奔走したのはいい思い出だ。
こういうマントも万が一のために、くまーのお腹に入れて持っておいた方がいいかもしれない。
そんなことを考えながら、ハットリから借りた服を脱ぎ元のワンピースに着替えた。
「ありがとう、助かったわ」
「で? どうして会合に変装して行く必要があったわけ?」
たしかハットリの服を奪った時に説明している暇がないと言った記憶があるが、残念ながら今もその暇がない。
「ごめんね、旦那様を待たせているからまた今度。じゃあね!」
「せわしない人妻だなあ」
ハットリのそんなボヤキを聞きながら、今度は鉢植えではなく普通に扉から部屋を出たのだった。