白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
 今頃、旦那様が会長室にいないわたしを探しているかもしれない。
 急がないと!

 酒場から駆け出したものの、途中で失速してしまった。

 ロイさんが自ら登録を抹消していたなんて知らなかった。
 どうしてジークさんは知っていたんだろう。
 
 とぼとぼ広場まで歩き、空いているベンチに腰を下ろすと立ち上がれなくなった。
 話し合いを上手くまとめられなかったことも、ロイさんが冒険者を辞めてしまったことも、どちらもショックが大きい。
 もしかすると最後の最後にロイさんが来てくれるかも!っていう淡い期待を抱いていたのは、何だったのか。

 わたしも冒険者を辞めてしまおうかな……。
 そう思ってうつむいた時だった。

「ヴィクトリア?」
 後ろからわたしを呼ぶ声がして、顔を上げて振り向くと旦那様が立っていた。

 しまった!
 ロイさんのことで感傷的になっている場合じゃなかった。
 旦那様のことを忘れていたわ!

「すぐ見つかってよかった。部屋にいなかったから探したんだよ?」
 旦那様がわたしの横に腰を下ろして顔を覗き込んでくる。
「申し訳ありません」
 あなたの存在を忘れていました——そこまではさすがに言わないけれど。

「いや、こちらこそすまなかった。あっさり終わるはずの会合が長引いてしまって、暇つぶしに外へ出たんだろう?迷子にでもなったのか? 泣きそうな顔をしている」

 謝らないでください。会合が長引いたのはわたしのせいです。おまけに何度も旦那様に助けていただきました。ありがとうございます。泣きそうなのはあなたとは全く関係ない理由です——正直にそう言えたらいいのに、言えるはずもない。

 旦那様がわたしの肩を抱いて引き寄せ、大きな手でわたしの頭をポンポンと撫でる。
< 39 / 93 >

この作品をシェア

pagetop