白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
 翌朝。
 
 ベッドがとても暖かい……まだ半分ウトウトしながらそんなことを考えて、寝返りを打とうとしてギョッとした。
 隣で旦那様が寝ているではないか。
 大声を出さなかった自分を褒めたい。
 
 昨晩は馬車旅の疲れもあって、旦那様の帰宅を待たずに先に休ませてもらった。
 王都のお屋敷での寝室は当然夫婦共用の部屋で、そこに置かれた大きなベッド——そう、あの因縁の初夜のベッドだ——で寝るしかなかった。
 
 まさかいつの間にか同衾していたとは!
 しかもどうして旦那様は上半身が裸なんですかっ!?
 
 起き上がってそっとベッドを抜けようとしたところで腕を掴まれて「ひっ」と息を呑む。
 
「おはよう、ヴィクトリア」
「お、おはようございます」
 
 セットされていない栗色の髪が額にかかる旦那様は普段よりも若く見えて、それでいて寝起きの色気の凄まじさはしっかり大人の男だ。
 
「そんなに嫌そうな顔をしないでくれ」
 
 嫌そうな顔をしているのではなく、わたしの寝起きの顔はあなたとは違ってこんなもんですよ! と思っているうちに、引き寄せられて旦那様の腕の中にとじこめられる。
 
 魔法科出身の割に筋肉質な腕や硬い胸板は、昨日の義母の話を聞けば納得だ。
 
「母が私たちの仲を疑っているんだ。だから、すまないが我慢してくれ」
 抱き寄せられて火照りそうになった頬も高鳴りそうになった心臓の鼓動も、その旦那様の囁きで急降下する。

 そういうことね。
 返事の代わりに小さなため息が漏れる。

 上裸のくせになぜか両手にしっかり革手袋をはめているのはなぜだろう。
 素手でわたしに触れたくないということだろうか。
 
 それでも、義理の両親までもが愛人とグルではないとわかって、どこかホッとしてもいる。
 これが本当に仲睦まじい新婚夫婦の朝なのだとしたら、どんなにくすぐったくて幸せだっただろう。
 
 わたしには、どうやらそれは高望みだったらしい。
 旦那様に隠し事をしてダンジョン攻略を最優先にしていた罰が当たったのかもしれない。
 しかもそのダンジョン攻略にもつまずいて八方塞がり。
 白い結婚のまま旦那様と離婚したら、修道院か孤児院に受け入れてもらえないだろうか。
 特技は土魔法しかないけれど、泥だんご作りとお花と野菜を育てるのは得意です!ってアピールしよう。
 
 旦那様の腕の中でそんなことを考えているうちに、やっとメイドが我々を起こしにやって来た。
 
「もうそんな時間か」
 わざとらしいことを言いながら半裸の体を起こして額にかかる髪をかき上げる旦那様の様子に、若いメイドの頬が瞬く間に真っ赤に染まる。
 
 旦那様ったら、色気振りまきすぎですってば!
 名演技に思わずクスクス笑ってしまうと、甘く微笑んだ旦那様に頭を撫でられた。
 
「もう間もなく朝食の用意が整いますので、お支度をお願いいたします」
 メイドが上ずった声で告げて去っていった。
 
 きっとすぐに「若旦那様と若奥様ったら、いつの間にかラブラブですうぅぅっ!」と屋敷中に噂が広まるだろう。
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