白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
 ゴゴゴゴッ! と怒りが込み上げたせいで指先から悪いオーラが出てしまったのかもしれない。
 目の前の見事なバラが急に萎れ始めた。

 しまった!
 バラには何の罪もないっていうのに、わたしとしたことが!

 感情の揺れで魔法が暴発しそうになった時は、耳たぶを引っ張るといいよ!と教えてくれたのは、わたしの魔法の師匠であるエルさんだ。
 
 おまじないみたいなものだろうと聞き流していたが、実際にやってみると冷たい耳たぶが熱を吸い取ってくれるように指先がクールダウンしていく。
 落ち着け、落ち着けと念じながら両方の耳たぶを引っ張る。
 
 突然萎れ始めたバラと、奇妙な行動をとるわたしを交互に見ながら、ヨーンがオロオロしている。
 
「あら、土が乾燥しすぎているんじゃないかしら」
 指の熱が落ち着いたところで、わざとらしくならないようにしゃがんで根元の土を触り、バラにごめんねと謝った。
 
 ついでに、わずかに掴んだ土でお得意のイモ虫を作って地中に数匹放っておく。
 このイモ虫は、地中を動き回って土をふかふかにするだけでなく、害虫を追いかけまわして追い払う役目も果たしてくれる。
 回収せずに放置しておくと、3日程度で元の土に戻るという優れものだ。
 
 ただのイモ虫をここまで高性能にしてくれたのは、もちろんエルさんのおかげだった。
 きっとこのバラもすぐに元気を取り戻して、さらに綺麗な花を咲かせてくれるだろう。

 その後は義父のお見舞いをして昼食を済ませると、もう夜会の支度が始まった。
 湯浴みをして髪には香油を、全身と顔は泥パックを塗りたくられた。
 泥パックにこっそり「赤ちゃんのような極上のお肌にしてちょうだい」とお願いしておく。
 すると泥を流したわたしの肌艶に驚いたメイドたちが「凄い!」と称賛の言葉を連呼していた。
 
 なるほど、これは商売になるかもしれないわね。
 旦那様と離婚したら『赤ちゃん肌を取り戻せ♡ 極上泥パック』という謳い文句で商品化しようかしら。
 
 将来の泥パックビジネスに思いを馳せているうちに、とんでもないドレスを着せられていた。
 せ、背中が……丸見えなんだけど!?
 
< 44 / 54 >

この作品をシェア

pagetop