白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
「あの……このドレスで合ってる? 下品だって旦那様に怒られないかしら」
 背中を大胆に露出しているドレスに戸惑うわたしとは対照的に、メイドたちはドヤ顔になる。

「若奥様はしなやかで健康的なプロポーションをしていらっしゃるので、ちっとも下品ではございません」
「こんな綺麗な肌を出し惜しみしてどうするんですか」
「人妻だからこそ、こういう大胆なカットのドレスをお召しになっても何ら問題ございません」

 問題ありまくりだわよっ!
 人妻って言ったって、わたしまだ生娘なんですが!?

 様子を見にきた義母がダメ出しをしてくれると期待したが、義母は手を叩いて喜んだだけでなく、なんとメイドたちに臨時ボーナスを支給するとまで言い始めて、この場がお祭りのような騒ぎになってしまった。
 
「ヴィクトリアさん! 正面から見たら可愛らしくて、後ろ姿は蠱惑的! なんて素敵なの。ロナルドが骨抜きになるのも納得ね。マーシェス侯爵家に嫁いできてくれてありがとう」

 お義母様、目を潤ませて喜んでらっしゃるところ非常に申し訳ないんですが、わたしは旦那様のことを骨抜きになどしておりません……と言えるはずもなく、引きつり気味に笑っておいた。

 帰宅して支度を整えた旦那様が部屋に入ってきた。
 光沢のあるシルバーグレーのスーツに、首元に巻いているクラバットはモスグリーン。わたしの瞳の色に合わせたのだろうか。
 かく言うわたしのドレスも旦那様の瞳に合わせたアイスブルーだ。
 
 正装の旦那様はいつも以上に素敵で、これで中身がクズ男じゃなかったらどんなに良かっただろうと心の中で悪態をつきながらにっこり微笑んでみせる。
 旦那様はまるで虚を突かれたように部屋の入口でしばし立ち止まった後、甘く微笑みながらゆっくりと距離を縮め、わたしの手を取って唇を寄せた。
 
「結婚式の時の花嫁衣装もとても良かったけど、今日はそれ以上にかわいいね」
 
 顔がカアッと熱くなる。
 お世辞でも茶番でも、こんな風に「かわいい」と言ってもらうと嬉しくなってしまうのだから、わたしの単純な脳みそもどうしようもない。

「さあ、そろそろ行こうか」
 そう言ってわたしの背中に手を回した旦那様は「なっ……」と言って一瞬体をこわばらせ、確認するようにわたしの背後に回った。
 
 おずおずと首だけ回して振り返ると、旦那様は口元を手で覆ってわたしの露出した背中を凝視している。
 
 怒ってる? それとも笑ってる?
 旦那様の胸中がイマイチわからない。
 
「あの……大胆過ぎたのなら、今すぐ着替えますが」
 
 いたたまれなくなってこちらから声をかけると、旦那様は手を放して小さく咳払いをした。
 
「いや、そのままで構わない。少し驚いたけど……控えめに言って最高に素敵だ」
 再び甘く微笑む旦那様の様子を見て、しん、と静まり返っていたメイドたちが一斉に黄色い声をあげ始める。

「マーシェス家のかわいらしいお嫁さんを見せびらかしてらっしゃい!」
 義母まではしゃいでいる。
 
 そんな大盛り上がりのお見送りを受けて、旦那様にエスコートされならがらパーティー会場へと向かった。
 
 控えめに言って最高——茶番でよくそんなことが言えるわね。
 お義母様! あなたの息子さん、やっぱりとんだ女たらしですよっ!
 そう心の中で叫びながら。
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