白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
「ヴィー、どうした。僕と行こうか」
 横から別の声がして、強引に腕を引っ張られた。
 
 しつこく絡んできた男が邪魔するなとでも言いたげな険しい顔でその人物を睨んだ……と思ったら、さっと顔色を変えて頭を下げた。
 
「エリック殿下、ご機嫌麗しゅう存じます」
「堅苦しい挨拶はいらないよ。この子は僕がもらっていくから」

 エリック殿下!?
 驚いているうちに、腰に手を回されて強引にバルコニーに連れ出されてしまった。

「よく化けてるじゃないか。僕でなければ君が誰だかわからないよ、ヴィー。最高にキュートだね」
 
 いやいや、待て待て。
 こういう軽い口調でにこにこしながらわたしのことを「ヴィー」と呼ぶ男性の心当たりならある。

 でも、まさか……。
 それに容姿が違いすぎる。

「エリック殿下、握手してくださいっ!」
 
 彼はふふっと笑って手袋をスルッと外し、素手でわたしが差し出した右手を握ってくれた。
 
 ああ、やっぱり。
 このじんわりと伝わってくる熱さは——。

「エルさん」
「あはっ、大正解! さすがだね、ヴィー」

 
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