白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
 どうしよう。
 エルさんと旦那様とは幼馴染なわけだし、もしここで旦那様と鉢合わせでもしたら、この人は間違いなく「僕、ヴィーと一緒にダンジョン攻略中なんだよ」ってバラしてしまうだろう。

 それとも、最初からわたしがヴィクトリア・クラリッドだと知っていてロナルド・マーシェスとの婚約のお膳立てをしたの……?
 だとすると、お飾り妻を探していた旦那様に、騙されやすいチョロい娘を知ってるとでも言って、わたしを売ったことになるけど!?

 わたしの邪推をよそに、エルさんも瞳を揺らして困惑した様子で聞いてきた。
「待って、ヴィーの旦那さんて、新婚早々浮気してるの? なんだよそれ、ちょっとここに連れて来なよ、僕が説教してやるから」

 やめてください。話がややこしくなりそうです。
 ここはしっかり釘を刺す。

「エルさん、わたしが冒険者だってことを誰にもしゃべらないでくださいね! 約束ですよ!」

 その時、視界の端っこに旦那様らしき人影が見えた気がして、わたしは咄嗟に逃げ出した。
 エルさん、旦那様、わたしの3人が揃うのはマズい。
 
このバルコニーは2階で、庭にせり出す造りになっている。
 下は土、だから行ける。

 死角になっているバルコニーの奥へ向かって走り、手すりをひらりと乗り越えて我が身を宙に躍らせた。
 着地するのではなく、まるで足から水に飛び込むようにスルっと土に入る。

 転移したのは、その先に見えていたバラ園だった。


< 49 / 93 >

この作品をシェア

pagetop