白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
「見損なったよ、ロイ」
 駆けつけたバルコニーでいきなりエリックに責められた。

 いやいや、待て待て。
「2年後に離婚とか、愛人とか何の話だ。俺のヴィーを手籠めにしようったって無駄だからな」

「なにが『俺のヴィー』だよ。ほったらかしでどこ行ってたのさ。僕がいなかったらヴィーはエロオヤジに連れていかれるところだったんだよ?」
 エリックは呆れ声だ。
「偉そうに言う割にまだ手も出してないじゃん。初夜を拒絶するとかなにそれ、ヘタレなの?」
 今度は怒りだした。

「親父さんがヴィーの素性を調べた上で僕に推薦状まで書かせてさあ、あんなに喜んでいたくせになに? 花嫁に恥をかかせて傷つけたくせに亭主面なんかするなよ。知ってるだろ、白い結婚はどちらか一方の申し立てで離婚が成立するってことぐらい。ヴィーはもうその先のビジネス構想があるみたいだよ」

 傷つけた自覚はある。
 あの夜のことを思い出すにつけ、どうしてこうなったんだと胸が痛む。

「愛人なんていない。仕方ないだろ、こっちから正体を明かせない事情があることぐらいわかってるだろ? それにあいつが好きなのはロイであって、ロナルド・マーシェスではない」
「なに言ってんの、同一人物だよ? 自分で自分に嫉妬してるとか、もはや拗らせてる以前の話だろ。差し支えない範囲で早く正直に言えばよかったのに馬鹿なの?」
 心底呆れているといった表情のエリックだ。

 まさにその通りでなにも言い返せない。己のふがいなさが招いたことだとわかってはいる。
 が、突然何かを思い出したように顔を輝かせた。

「あ! そうそう、ヴィーは僕がエルだってすぐに気付いたよ」

 やっぱり師弟愛は最強だよねと言ってドヤ顔をするエリックに腹が立つと同時に、何故……とショックを受ける。
 
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