白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

旦那様へのお仕置きを妄想してみました

 バラ園は所々に吊るされたランタンの明かりで照らされていて、昼間よりもバラの香りが強く感じられる魅惑的な場所だった。
 咄嗟に逃げてしまったけれど、どうしようか。
 もうこのまま帰ってしまおうか。

 そんなことを考えながら前に足を踏み出そうとして足を止める。奥から男女のクスクス笑いのような声が聞こえてきたためだ。
 場所を少し間違えていたら、情事真っ最中の男女の目の前に飛び出していたかもしれない。
 いっそ驚かせてやればよかったかしら?

 わたしを置いていった旦那様の腕に絡みつくようにしなだれかかっていた派手な女性の姿がフラッシュバックする。
 高位貴族の夜会って、エロいことしか考えてない大人の集まりなわけ?
 旦那様はどうしてこんな場にわたしを連れてきたのかしら。
 自分の愛人をわたしに見せびらかしたかったの?

 沸々と怒りがこみあげてきて、このままだとまたバラを萎れさせかねないと気づいて慌てて耳たぶを引っ張った。
 熱い指先を冷ましながら落ち着けと言い聞かせる。

 その時、突然背後に気配を感じた。
「ヴィクトリア」

 この静かで低い声は旦那様のものに違いない。
 ゆっくり振り返ろうとしたら、肩にまだ温もりの残るジャケットを掛けられた。

「冷えるだろう? というか、なぜ耳を引っ張ってるんだ」
 わたしの顔を覗き込もうとした旦那様が奥の暗闇に目をやり、なるほどと納得したように頷いている。
「いいよ、出してしまえばいい。いけないことをしている大人にはお仕置きが必要だろ?」

 ランタンに照らされた悪そうな顔までかっこいい旦那様が、後ろから抱きかかえるようにしてわたしの手を握る。
 いつも着けている手袋を外した素手だ。
 旦那様の大きな手から痛いほどビリビリした刺激が伝わってきて制御がきかない。

 ドン!
 大きな音と共にわたしの指先から放たれた衝撃波はバラの花びらを散らしながら真っすぐ飛んで行き、奥から「うわあぁぁっ!」
「きゃあっ!」という男女の悲鳴が聞こえた。

「逃げるぞ」
 旦那様は、ジャケットの上からわたしの肩を抱いて走り出す。

「ちょっ……あの、今の大丈夫だったんでしょうか!?」
 足がもつれそうになりながらも、悲鳴をあげた見知らぬ男女の安否が気になって後ろを振り返りながら問うと、旦那様は実に楽しそうに笑っていた。

「そうだな、尻に当たれば服が破けて大きな穴が開いているだろうし、頭をかすっていればハゲてるかもな」
「あははっ、お仕置きにはちょうどいいかしら」
 悲惨なことになっているであろう姿を想像して、思わず大きな口を開けて笑ってしまった。
 
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