白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
 いけないことをしている大人にはお仕置きが必要——それって旦那様にも当てはまることなんじゃなの?
 それに気づいたのは、逃げるように夜会を後にして、ふたりそろって馬車に乗り込んだ後だった。

 さっきは旦那様の力を借りて衝撃波を出したけど、あれってひとりでできないかしら。
 エルさんはイマジネーションが大事だっていつも言ってるわよね。

 人差し指を立てて見つめながらイメージしてみる。
 指先からドン! 指先からドン! 指先から……。
 
「待て、何をやってる」
 横から低い声が聞こえたと同時に、人差し指を掴まれた。

「うわっ!」
 また暴発するかと焦ったけれど、手袋をはめ直した旦那様の手からはさっきのようなビリビリは伝わってこない。
 
「馬車の中で魔法を使おうとしていただろう? 馬が驚くからやめろ」
「大丈夫です。わたくしの魔法がたいしたことないのは実家から聞いてらっしゃるでしょう? ただちょっとイメージトレーニングをしていただけですから。さっきの『お仕置きドン!』を自力で出せたらいいなあって。まあ、無理でしょうけどね、わたし土魔法以外は使えないので」

 旦那様がプッと笑う。
「魔法に妙な名前を付けないでくれ」
 そして手袋を外すと、わたしの手を包み込むように握った。
 
 エルさんのような熱さはないかわりに、旦那様の手からはビリビリと痺れるような感覚が伝わってくる。
「素手で誰かに触れると静電気がひどいから、手を繋ぐこともできないんだ。でもヴィクトリアは大丈夫そうだな」

 わたしに直接触れるのが嫌なわけではなかったのね……?
 旦那様が常に手袋をはめている理由を初めて知った。

「旦那様は、攻撃的な魔法がお得意なんですよね?」
 わたしの質問に、旦那様は首を僅かに傾げて微笑んだだけで答えてくれなかった。
 
「魔法はあまり好きじゃない」
 こんなポテンシャルを持っていながらなんて贅沢な人なんだろうか。「得意ではない」ではなく「好きではない」と言うところが憎たらしい。
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