白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
 気分転換に図書室の中で自分で髪を切ったと言うしかないだろう。
 肩の少し上でざんばらになった髪を手櫛でといた。
 髪を代償にして「お仕置きドン」を会得できたのなら本望だ。髪は少しずつ伸びていつか元通りになる! そう自分に言い聞かせてみても、気が晴れない。

 ダンジョンの戦闘中に考え事をしていたわたしの不注意が招いたことではあるけど、そもそも「お仕置きドン」をマスターしたいと思ったのは旦那様にお仕置きしたいからであって、ということはつまり……。

「こうなったのも全部、旦那様のせいよっ!」
 拳を握って叫ぶと、エルさんが慌てた様子でわたしのその手を両手で包み込む。

「わあぁぁぁっ、ヴィー落ち着いて。拳からヘンな煙が出てるよ、怖いなあもう」
 そして眉を八の字にして、心配そうにわたしの顔を覗き込んだ。
 
「ヴィーの旦那様ってさ、本当に愛人がいるの? もう一度よく考えてみたらいいかもしれないよ」
 
 もう一度よく?
 初夜で言われたことを思い出せってこと?

 なだめようとしているのか、エルさんがわたしの背中をトントンしながらソファに座らせてくれた。
 腰を落ち着けたちょうどいいタイミングでハットリがグリーンティーを差し出してくれる。
 
 ありがたくそれを頂戴しながら、気持ちを落ち着けてあの夜に旦那様から言われたことを思い出してみた。
 たしか「きみを抱くことは控えさせてもらう」「酷いことを言っているという自覚はある」だったかしら。
 愛人がいるとは一言も言われていないけど、それ以外に理由があるのだとしたら何だろう。
 
 ————!
 まさか……。

「もしかすると旦那様は、男色家なのかも!」
 
 一緒にグリーンティーを飲んでいた男3人が一斉にブッ!と吹き出した。

「あ、夕食の時間なので帰りますね。お疲れさまでした」
 
 慌てて鉢植えにダイブしたとき「あーあ、もう知らなーい」というエルさんの呆れた声が聞こえた。

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